耳鳴り外来

耳鳴りと私

内耳から大脳皮質に至る経路までの間にslow i.p.s.p. によるlateral inhibition-側方抑止(slow i.p.s.p)が起こりシナプスの伝達遅延もしくは遮断が発生しているからだと説明されました。 即ち生まれてこの方、常に存在する音(瞬きの音、嚥下の音、心臓の鼓動。脈の音)はlateral inhibition-側方抑止などのために大脳皮質聴覚野に達しないのだと説明してくださいました。この教えは翼口蓋神経節細胞、鼻粘膜知覚神経繊維、鼻粘膜交感神経繊維で学位をとってからも常に私の脳裏に焼きついていました。
副交感神経線維である翼口蓋神経節前線維と並走する交感神経節後繊維を刺激すると翼口蓋神経節細胞のシナプス伝達が遅延し、刺激されている間、鼻水が出にくくなります(側方抑止)。
一方鼻粘膜知覚神経繊維が刺激されると、場合によってはそのインパルスは延髄のくしゃみ鼻水中枢に行く前に抹消の翼口蓋神経節細胞ともシナプス連絡もち、鼻粘膜から鼻汁分泌を反復させます。アレルギー性鼻炎、感冒による鼻炎などでは、大いに変化した鼻粘膜の知覚神経線維が抹消の翼口蓋神経節とシナプス連絡を持ち、異物を洗い流すための鼻汁分泌増加サイクル-悪性サイクルといえる様な回路を生じさせる可能性があります。神経活動の伝達には効率と非効率の二面性が必ずあります。常に存在する音(瞬き・嚥下)が意識に上らないことは交感神経節後繊維と翼口蓋神経節細胞の関係に似ていますし、どこか聴覚系で発生した新しい音(耳鳴り)は突然発生した新しい出来事なので側方抑止でなく危険回避のため側方活性されたり、神経伝達の効率性のためにサイクルを作るのだなと理解してきました。耳鳴りと鼻水分泌の神経生理学背景は良く似ています。
大学での長い研究生活 教鞭生活に別れを告げ、開業後も耳鳴りに非常に興味を持ってきました。 それで平成2年、開業後すぐに側方抑止を発生させる為の2台の耳鳴マスカー(リオン)を購入しました。平成2年以降多くの患者様の耳鳴りを軽減することが出来ました。もちろん耳鳴りをマスカーで消しても保険請求点数もなく、患者様に治療費を請求することもありません。
マスカーによって鼻の神経生理学的研究を耳鳴りの治療に応用することが出来、学問、研究の大切さを学んだことは非常に幸運でした。
マスカーは今も大事に診察室の机の上に置いてあります。マスカーを触るたびに大学での研究生活を懐かしく思います。
開業後、私自身がその実験モデルになれるとは幸運でした。働きすぎ?で非常に高度の突発性難聴になってしまいました。今も複雑な聴力像と3000Hzの耳鳴を抱えています。
患者さんを診察しているとき、英語の文献を読んでいるとき、このホームページを書いているときも気にはなりません。何もしないで静かになった時に耳鳴りは感じることもありますが、それも気になる程のことはありません。耳鳴りの発生に関して私なりに良く理解しているから気にならないのだと思っております。
これがTRTの指示療法です。自分で実践しているのですね。
理事長 星野 忠彦